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祈りが美へと昇華した国 パキスタンを旅する[2014年04月01日]

今まで観てきたものとは違うバックグラウンドの美術を求めて、パキスタンへ行ってきた。
初めて辺境と呼ばれる地を訪れたが、理由なんて案外あっけないものだ。

○●○ラホール○●○

ラホール博物館蔵 仏陀のコントラポスト(片足重心)はギリシア文化の影響

古都ラホールの街には、16、17世紀の建造物が人々の生活の中心にある。
荷物を背負ったロバを従え、人々はかつての城壁をくぐり仕事へ向かう。古来からある幹線道路では、強烈な個性を放つトラックが地方から地方へと駆け抜ける。休みの日になると気の合う仲間で集まり、ラホール城そばの広場でクリケットや、華やかなシャリマール庭園でピクニックを楽しむ。江戸時代初期の建造物がいつもそばにある暮らしなんて、日本では考えられない。


魅力あふれる古都のなかでも、パドシャヒモスクの美しさは何ものにも代えがたい。
6万人が一度に礼拝できる機能性、ピンクシティ インドのジャイプールから運ばれたという赤砂岩からムガール帝国の栄華をみることができる。

パドシャヒモスクの門

パドシャヒモスク

絶対的な左右対称と、デザインされたゆるやかな曲線のリフレインは、世界の誰が観てもその美しさを讃えるだろう。モスクの門にはイスラム教の厳しいイメージと対照的な愛らしい花々の装飾があり、思わず笑みがこぼれる。
しかし、何故アラベスクではなく花が描かれているのだろうか。それはバラのようにも見える。調べてみると、白いバラは預言者ムハンマドを、赤いバラは唯一神アッラーを象徴するのだという。そういえばキリスト教において赤いバラはイエスの血、白いバラはマリアの母性を表すと聞いたことがある。私が見ているこのイスラムのバラは、人々のどんな思いを代弁しているのだろうか。

○●○ワガ○●○

「パーキスターン ジンダバード(パキスタン万歳)!」「ジブ ジブ パキスタン(パキスタンよ永遠に)!」「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)!」
普段はおとなしいパキスタンの人々が腕を掲げ、叫び、立ち上がる。大音量の応援歌に、ハイテンションな応援隊長が、人々の興奮に煽りをかける。観客席は男性席と女性席にきれいに分かれはしているものの、大人も子どもも、まるでパキスタン国旗のあの白い星のようキラキラした瞳。壁の向こうのうごめきを見ると、どうやらこちらに負けじ劣らじ、かなり盛り上がっているようだ。
これから、待ちに待ったフラッグセレモニーがはじまる!

ラホールから東に29km、インドとの国境町ワガでは毎日、国旗掲揚合戦が行われている。このセレモニーが注目されはじめたのは、本当に最近のこと。これがはじまったのも4、5年ほど前からだという。朝8時~15時まで国境として利用されているこの門も、日没の2時間ほど前になると国家の威信をかけたステージへと変わる。

大熱狂の中、勇ましいトランペットの音が人々の心をさらに震わす。警備兵らがやってきた。そろって2m10、20cmもあるのかというほどかなりの長身。黒々とした制服に、威圧感を覚える。一方で高らかに上げる足で地面を叩き、大きすぎる歩幅での横移動はなんとなくコミカルにも見える。警備兵が足を高く上げれば上げるほど、観衆は盛り上がるのだ。この日はパキスタン全土で優秀な成績を収めた学生が、セレモニーに招待されていた。TVカメラが何台も取材に入り、いつも以上の大熱狂だったようだ。

パキスタンとインドの警備兵らは力強い握手を交わし、とうとう旗が降ろされる。かつては同じ国だった両国の旗は、息のそろった同じスピードで徐々に引き下げられ、警備兵らの手に納められていく。これを見ると両国間の関係は良好で、簡単に行き来ができそうに見える。実際にはパキスタン人がインドへ渡航する場合、ビザの取得に2、3ヶ月かかり、インド側が発行した招待状などが必要。さらに厳しい審査を通過しなくてはならない。数歩歩けばそこはインドだが、数歩歩くためにはかなりの労力が要る。

○●○タキシラ遺跡○●○

タキシラの地にて、自分が訪れたかったのはまさに此処だったのだと確信した。

今までタイ、カンボジア、ネパール、インドネシア等様々な国で仏教彫刻を見る機会があった。それらは周辺の国、宗教から影響を受け、東に行くにつれ徐々に変化をする。しかし、そもそもの仏像文化は周辺国、周辺宗教の影響からではなく、遠いギリシアの文化が入り混じったことではじまった!この文化の化学反応を知って、自分はパキスタン行きから逃れられなくなっていた。

平山郁夫氏がモデルにした仏像

前述のとおり、アレキサンダー大王の東方遠征によって仏教に偶像崇拝文化がはじまった。生まれたばかりの仏像はギリシアのヘレニズム彫刻の名残があり、静かで神秘的。写実的な肢体と、無表情の美しさはまさにそれを由来にもつものだが、目元はまるで蓮の蕾のようにふっくらとしていて、東洋の香りがただよう。

ストゥーパを背負うアトラス神と獅子

世界の西の果てで天空を背負っているギリシア神話のアトラスが、ここではストゥーパを背負っている。隣には獅子もいる。迷い込んだ異教の神に、ガンダーラ美術の真髄を観た気がした。
匈奴の侵入によって破壊された仏像に比べてアトラスの破損が少ないのは、彼らにとってアトラスが無名の神だったからだろうか。それとも匈奴は、天空が堕ちてくることを恐れていたのだろうか。


「渡航の是非を検討して下さい」と注意喚起されているエリアだったため、出発前は不安でいっぱいだった。乗り継ぎ地のバンコクで何度引き返そうと思ったかわからない。本当に自分はパキスタンへ行きたいのだろうか…何度も自問自答した。

警察の護衛つきで遺跡観光をしたり、砲撃練習の音をBGMに散策をしたり、普段の生活からかけ離れた経験ばかり。なぜ自分はここに来てしまったのか・・・我に返る瞬間もあったのは事実だ。滞在中には自爆テロも発生した。けれど、身の危険を感じることは一度もなかった。出会う人ひとりひとりが、今でも鮮明に思い出せるほど魅力的、どこへ行っても穏やかでやさしい笑顔に出会えた。ガイドのサポートも万全。自爆テロ発生時あまり身の心配をしていない自分に、たくさんの心遣いをくれた。こんな人たちが口をそろえて「大好き」と話す国だから、すっかり安心して旅を続けることができたのだろう。


旅の目的だった発祥の地の仏像は、言わずもがなの美しさ。この西洋の名残りと神秘性は、どのようにして生まれたのだろう。想像力はさらに掻き立てられる。
今までは主に仏教来伝南まわりの仏像を観てきたが、北まわりの仏像も観てみたい。そしてまた、この国に戻ってきて比較してみたい。
だって、世間一般に言われているほどパキスタンは悪くない。いや、むしろかなり面白いのだから。

タキシラ遺跡で出会った羊飼いの子どもたちと


2014年3月 仙波 佐和子

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