井原三津子 旅のコラム 旅行作家でありファイブスタークラブスタッフの井原三津子が贈る旅のコラム

のどかな水辺の暮らし...インレー湖(ミャンマー)

生活感たっぷりの早朝マーケット

ニャアウンシュエ・マーケットは、5日に一度、インレー湖畔で開かれる。山岳少数民族であるシャン族の人々が、民俗衣装に身を包み、朝早くから市場へと集まってくる。 湖でとれたての生きた魚や、日干しの魚、たくさんの野菜やお菓子から日用品に至るまで、あらゆるものが地べたに麻袋一枚を敷いて、山積みされ売られている。
地元の人々は皆、カラフルな幅広いショルダー付きの織り布製の袋を肩から掛けて買物をし、じかに野菜を放り込んでいく。魚は手づかみでシッポを持って帰るのだ。

「名産品」はトマト

野菜の中で目立つのが、トマトである。小ぶりでオレンジがかった色のトマトは新鮮で、かじってみると驚くほど味わいがあるのだ。これは湖の中の浮島で、水上に暮らすインダー族の人たちが栽培している「名産品」である。シャン族はもち米にトマトを入れて酸っぱいおこわを炊くのが好みらしい。
市場の中でもどことなく酸っぱい香りが漂っている。見ると、蒸したてのトマト入りおこわを大きなハスの葉っぱに入れて売っている人がいた。これを買って、お総菜屋のテーブルで食事する人々の姿も見える。
いわゆるシャン料理は、こうしたおこわに魚を混ぜ、砕いたピーナッツをふりかけ、豚肉の甘辛煮や、湖の魚のから揚げなどと一緒にいただくというもので、われわれ日本人の口に合うものである。
インレー湖は、ミャンマー中部の東方、中国と国境を接するシャン州に位置し、海抜870mほどのシャン高原にある、この国きっての風光明媚な湖として知られる。南北22km余りの細長い湖には、小さな水上集落や水上マーケット、たくさんの浮島があり、のどかで素朴な水辺の暮らしを見ることができる。
モーター付きの小舟で水上遊覧を楽しんだ。白いがっしりした木のいすに座って、滑るように湖面を走る乗り心地のよさは格別のものだ。両岸に緑の木々と黄色い花々の咲くミャンマーの田舎らしい風景が流れていく。遠くに黄金のパゴタのせん塔も見えて情緒満点だ。インダー族の男たちが建って片足で櫓を操りながら小舟を漕ぎ、両手で網を使って魚を採っていた。不思議な光景だ。
ふと気がつくと、ボートの2mぐらい上を飛びながらついてくるカモメの群れ。クラッカーを投げるとパクっと上手に食べるのが面白くて熱中してしまった。しばらく行くと、狭くなった水路を縫うようにボートは進む。ここでは、インダー族の男たちは泥に半身埋まりつつ、泥をすくいあげて埋め立て、浮島を造りトマトを栽培するのだ。「名産品」はこんな努力をもって出来上がっているのだと知った。

パゴダで無事祈り

水上の木造家屋にある、インダー族の織物工場を訪れた。インダー族の女性は織物の伝統が長く、絣風の鮮やかな色柄のしっかりした布地を丁寧に手織りしているのだ。 ミャンマーの人々はどこへ行っても親切だが、ここの人たちも心から私たち観光客を歓迎し、温かい笑顔でもてなしてくれる。誰に会っても懐かしい人々に久しぶりに再会したような気分にさせられるのである。
ミャンマーの日常着であり正装でもある腰巻き布、ロンジー用に織られたシルクの生地は、仕立てればすてきな洋服になりそうだ。喜び勇んで紫地に黄色の絣柄のを買うことにした。思えば、簡単に20ドルで私が買った1枚の布に掛けられた膨大な時間と労力はどれほどのものだろうか。
またしばらくボートで走ると、遠くに見えていたパゴダのところまでやってきた。 ボートが桟橋に着くと、そのまま裸足で石の階段を上って行く。 目の前に現れたのは金と銀のパゴダであった。ここの御本尊は、お団子を2つ重ねたような形で、金ぱくでぴかぴか光るユニークなものである。
残念ながら女性は入場禁止。男性は花束を2束買い、花瓶に生けてお拝み、金ぱくを買って御本尊に張り付ける。遠巻きに女性も一緒に拝むというやり方だ。私は心を込めて、これからの旅の安全とインレー湖に暮らす人々の幸せを祈っていた。
外に出ると、午後の少し和らいだ日差しの中で、赤ん坊は昼寝をし、道端の土産物屋の人々もけだるそうに寝そべっている。そこだけが、時が止まってしまったような世界である。
桟橋のところに座り、市場で買ったおこわをほおばってみた。湖から吹く風が心地よくほおをなで、のどかな風景の中で口にしたおこわは、無性に懐かしくほっとする味わいであった。

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