井原三津子 旅のコラム 旅行作家でありファイブスタークラブスタッフの井原三津子が贈る旅のコラム

子連れ辺境旅行で大事件発生!

高級レストランで食べたシーフードピザがすべての元凶

子連れで辺境を旅していると、思わぬ病気に悩まされることがある。娘が9歳の冬休み、エチオピアに旅したときのこと。首都アジスアベバの高級なイタリアンレストランで食べたシーフードピザのムール貝にあたった。清潔で高級感のあるレストランだったのですっかり油断したのが失敗だった。
エチオピアの見どころは南北ではっきり分かれ、それはまるで2つの国から成り立っているようだ。北部ではナイル川の源アビシニア高原に点在する古都を巡る旅。ラリベラの岩窟教会群やシバの女王ゆかりのアクスム、すばらしい城のあるゴンダールなど、世界遺産の宝庫である。かたや南部では、緑豊かな大自然が広がる大地溝帯に面した秘境中の秘境と呼べる奥地で、独特の文化を持つ民族に出会える。下唇にお皿を挟んでいるムルシ族はその最たるもの。
私たちは北部を周遊し、アジスアベバで1泊した後、大晦日の日、南部の観光の拠点となる町アルバミンチを目指して8時間の車移動の道中にいた。ガイドのエルメスさんは若くてもしっかりした黒人男性だ。北部もずっと案内してくれたので娘とも打ち解けていた。
午後、症状が出始めた。ムール貝を2個食べた私はひどい下痢に、1個しか食べていないのに娘は4回も嘔吐する。そして39.3℃もの高熱が出た。(ちなみにムール貝嫌いのパパはひとつも食べずセーフだった)
エチオピア南部の風景
エチオピア南部の風景
ワタイタ族の家(エチオピア南部)
ワタイタ族の家(エチオピア南部)

大晦日から元旦にかけての大騒動!人々の温かい心に感謝感激!

アジスアベバからアルバミンチへの道
アジスアベバからアルバミンチへの道
アバヤ湖(アルバミンチ)
アバヤ湖(アルバミンチ)
かろうじてアルバミンチのホテルにたどり着き、エルメスさんが病院に連れて行ってくれた。出てきた白衣の男は、なんだか頼りない感じ。「蚊には刺されていない」「貝にあたって何度も吐いた」と説明しても「マラリアじゃないですかねえ?」とボソボソ言っている。よく聞くと、その男は看護師で、大晦日の今夜、医者は一人もいないのだと言う。南部の主要都市のひとつなのに、アルバミンチにいる医者は3人だけという。一人は目下海外にいて、一人は急患の往診で遠くへ出かけている。残る一人は所在不明だった。ホテルで娘を寝かし、日本から持参した熱さましを飲ませてひたすら氷で冷やし続ける。ぐったりとしてなかなか下がらない高熱に、このまま熱が下がらなかったらと生きた心地がしなかった。
そこへ所在不明だったドクターを連れてエルメスさんが息せき切って戻ってきた。友人と大晦日のディナーを楽しんでいる最中だったのに、無理やり引っ張って来てくれたのだ。エルメスさんは娘が病気の間中、アイムソーリー、可哀想にと、とても心配して食事も取らずあちこち駆けずり回ってお医者さんを探してくれたのだ。
そのドクターはしっかりして信頼できそうだった。吐き気止めの注射をお尻に打って、体力をつけるグルコースの粉を水に溶いてたくさん飲むようにとの指示。早朝5時、まだ39℃台の熱が下がらないので再度連絡すると、7時にクリニックに行くから来てくれとのこと。娘のために休みの中ドクターは早朝から自分のクリニックを開けてくれたのだ。エルメスさんが夜も寝ずに何度も新しい氷を持って様子を見に来てくれたのも心強かった。
クリニックへ出かける頃になると、嬉しいことにかなり熱も下がり始め、奇跡のように回復。食欲も出てきた。エルメスさんはよく熟した美味しいマンゴを娘に用意してくれていた。夕べドクターがバナナは消化に悪いのでマンゴがいいと言っていたのをちゃんと聞いていたのだ。熱が下がったことをドクターもエルメスさんもホテルのスタッフも皆が喜んでくれた。人々のこんなに温かい気持ちに触れたのは本当に久しぶりだった。辛い出来事だったが、私はエチオピアという国が大好きになった。
クリニックをあとにするとき、今朝の分のお支払いをしようとドクターに聞く。「支払いは結構ですよ」とドクター。彼は結局チップさえ受けとらなかったのだった。

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