井原三津子 旅のコラム 旅行作家でありファイブスタークラブスタッフの井原三津子が贈る旅のコラム

カラコルム—桃源郷の村 青空に広がる壮麗な稜線、長寿村のイメージそのままの世界 フンザ(パキスタン)

天上の楽園へ

雲を抱く7,000km級の山々に四方を囲まれたフンザ。かつては世界三大長寿村と呼ばれるほど人が長生きできたことでも知られる。
フンザはクンジュラブ峠以南の一帯の地域名であり、昔の王国名である。
いい空気とストレスのない昔ながらの暮らし。たわわに実る果実と清らかな雪解け水。あんずの木の下で孫やひ孫を連れて日向ぼっこをするおじいさんの姿。これこそ、誰もがフンザに対して抱くイメージに他ならない。
クンジュラブ峠を越えて、パキスタンに入った私が、次に目指したのは、そんな天上の楽園フンザであった。
標高2,800kmの国境の町スストに1泊し、翌日は標高2,500kmのフンザの中でも代表的な村、カーリマバードへと下りていく。桃源郷のイメージは膨らみ、期待はつのる一方であった。

なお桃源郷

フンザは今も世界三大長寿村なのだろうか。地元の人々答えはこうだった。「カラコムハイウェーができてからというもの、フンザにも観光客が増えてホテルが建ち並び、暮らしも近代化してあらゆる環境が変わってしまった。だから昔ながらの素朴な暮らしはなくなり、今では百歳を越えるような年寄りはいなくなりました」
カーリマバードの村には、たしかにホテルやみやげ物屋が増え始め、バックパッカーの欧米人などの観光客も多い。
しかしながら、この村は四方八方、360度のパノラマで雪を抱く7,000kmを越える山々に囲まれた谷間に位置する。晴れた日の朝、雲ひとつない青空のもと、壮麗な稜線を見せる山ラカポシ(7,788km)や、すっきりした形のウルタル(7,323km)を眺めながら、熱いチャイ(紅茶)をホテルの屋上で啜(すす)る、朝食前のひととき。
自然美の卓越したすばらしさにおいて、何がどう変わろうとも、カーリマバードが永久不滅に桃源郷を名乗るに値するところであるのはまちがいない。

素朴な村々へ

ところが、予期しなかったことに、私がフンザに抱いていたイメージ通りの村々は、カーリマバードの郊外で見つかった。
パスー氷河のあるパスー村は、緑多きのどかな村だ。リンゴやあんずの実がたわわに実り、小川のせせらぎがきこえる。目の前に迫るパスーカテドラルと呼ばれるギザギザの岩山がその名の通り中世の教会を想わせる。青空に真っ白の氷河がよく映える。安いゲストハウスしかない、小さな村だけあって、人々が素朴で陽気で感じがいい。
もうひとつの村グルミットではハイキングを楽しんだ。ひまわり、コスモス、あんずなど、色彩鮮やかな花々が庭にいっぱいで、花に埋もれそうなとある小さな宿で美味しいパキスタンのカレー料理を堪能した後、村の小道をどんどん登っていく。
学校帰りの制服姿の小学生の子どもたちが、すれ違いざまに愛嬌たっぷりにあいさつしてくれる。道端のあんずの木から、私はよく熟れた実を採って丸かじりした。  そよ風の吹き抜ける山道で食べたあんずは、柔らかくて、今までに食べたことのないほど甘酸っぱくて美味しいものであった。
口の中に広がる甘さはフンザに抱くイメージどおり、桃源郷の味がした。

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