アンコール遺跡群を巡る(カンボジア)

9世紀から600年余り、繁栄を極めたクメール王朝の遺跡、アンコール。中でもアンコール・ワットと四面仏頭塔のあるアンコール・トムはあまりにも有名な文化遺産である。
ところが、このふたつを見ればアンコールを知ったと思うのは早計である。なぜなら、アンコール遺跡群と呼ばれる、たくさんの魅力的な遺跡がその周辺に点在しているからだ。
それらは、造られた時期もさまざまで、平地型の建物があるとおもえば、ピラミッド型のものもあるし、初期のレンガづくりから、砂岩やラテライトの遺跡まである。それぞれの印象もまったく異なる、バラエティーに富んだ遺跡群である。
すべてを見るのは何日もかかるので、私はそのうちいくつかを、1日で駆け足で見て回ることにした。

自然と融合した遺跡

1432年、シャムとの戦いに敗れ、それ以降1860年にフランスの博物学者アンリ・ムオに発見されるまで、アンコール遺跡群は熱帯の密林に埋もれていた。
その中で、発見当時のまま手を加えず放置されている遺跡があった。
タ・プロームがそれである。1186年に仏教僧院として建てられ、後にヒンズー教寺院となった。広大な敷地内の石の壁には、ガジュマルの木の根がものすごい勢いで伸び、へばりついている。今にもその巨大な樹木に押しつぶされそうになりながら、かろうじて寺院の体裁を保っているのだ。まさに自然の生み出した芸術といえよう。しかし、このままでは遺跡は確実に崩壊に向かってしまうことだろう。
ユネスコの世界遺産582カ所のうち、アンコール遺跡群が「危険にさらされている世界遺産リスト」の23カ所のひとつに数えられていることを思い出した。。

建築様式もさまざま

時代が遡り、961年に建てられたプレ・ループはレンガ系の寺院である。ヒンズー教の神々を祭る祠堂群が、離れて見るとピラミッド型をしているのが興味深い。
大きさがまちまちのレンガづくりの階段はとても急で、一段の高さもかなりあって昇りにくい。乾季だからいいけれど、これが雨季なら滑り落ちそうで、ちょっと遠慮したいほどだ。でもがんばって昇ると、辺り一面豊かな緑の大地が広がる絶景が待っていた。
東メボン寺院も、同時期、同じ王によって建てられたピラミッド様式のヒンズー寺院である。こちらの特徴は内部の壁が二重に張り巡らされていることだ。しかもその四隅には遺跡を守るかのような立派な象が立っていた。
中央の池から四方の象と牛とライオンと人の頭部をかたどったそれぞれの樋口を通って水が流れ出す仕組みの仏教寺院、ニャック・ポアンは12世紀末の建造物である。この池のまわりには薬草がたくさん自生し、地元の人々や参拝客があちこちで採って帰る姿が見えた。
薬草を採って、池の水を飲んでいる家族を見つけ、話しを聞いてみた。遺跡の中の薬草は特にご利益があると皆信じているのだという。
素朴で笑顔が優しい、顔つきがそっくりの親子三代の家族らしい。
子どものころ、近所に住んでいた一家に似ている。私はふと懐かしい気分に浸っているのだった。