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井原三津子の旅コラム
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世界で一番長い滝 エンジェルフォール(ギアナ高地) 勢いよく降り落ち、途中で霧と化す(ベネズエラ)
世界で一番長い滝 エンジェルフォール(ギアナ高地) 勢いよく降り落ち、途中で霧と化す(ベネズエラ)
ヘリで巡るツアー
「ヘリコプターなら、DC3の小型機とちがって滝を下から見上げることもできるし、ゆっくり旋回しながらじっくりと見物できるのです」 ヘリガイドであり探検家のペレスさんは私にそう力説した。
南米ベネズエラにある世界最後の秘境・ギアナ高地には、人類の生命が誕生する以前から今に至るまで手つかずのままに残る大自然がある。世界一長い滝であるエンジェルフォールをはじめ、たくさんの滝があることでも有名だ。
そのギアナ高地を探検する拠点となるカナイマへは、首都カラカスから空路一時間半と、意外に近い。そしてカナイマのヘリポートからいよいよ待ちに待った一時間のヘリコプターツアーに出発した。
雨期の終わりにさしかかった十一月のカナイマではよく雨に遭う。 そのかわり滝の水量は多く、その分乾季に比べ迫力も増すのだそうだ。スコールの合間をぬって、珍しく長い晴天が続いている。四人乗りヘリは青空のもとで順調にスタートした。
ちょっとした冒険
最初に眼下に見えたのがサポの滝であった。泥色の分厚い水のかたまりがドドッと迫力ある轟音を立てて流れ落ちる様子を、右から左から、ヘリは旋回して見せてくれる。
「この滝はボートで近づいて行って、滝の裏側を歩けるんですよ。地元のインディオの言葉でサポはカエルを意味します」とペレスさん。黄色と黒のツートンカラーの小さなカエルが滝の回りにたくさん生息していて、それを触った手をなめると死ぬほどの猛毒を持つのだという。「ちょっとしたアドベンチャーツアーですよ。明日あたりどうですか?」。ニヤリと笑って事も無げにいうペレスさんである。
彼はもう十五年間もこの地でヘリに乗り、ギアナ高地をあちこちまわった、いわば現代のジミー・エンジェルである。エンジェルフォールを発見したジミー・エンジェルのよう舟か。
ギアナ高地には百以上のテプイが存在するという。ペレスさんはそんな山の上に、時には五日間もキャンプして探索するのだというから驚きだ。
倒されたモアイ(アフ・ハンガ・タエ)
600メートル級が次々
「どれでも選り取りみどり、好きな名前を付けてもいいですよ」とペレスさん。 あの滝が美しいと感嘆する私に、「じゃあ、あの滝をミツコと名付けましょう」などと嬉しいことを言う。
大きな山をもうひとつ超えたとき、「サルト・アンヘル!」とパイロットが叫んだ。スペイン語でエンジェルフォールのことである。
右手にとりわけ長く勢いよく降り落ちる滝が見えた。途中で霧と化して消えてしまうので滝壷はない。大きな水蒸気の塊が目の前で渦巻いている。ヘリは上に飛び下に飛び、その上、真下に着陸して存分にエンジェルフォールを堪能させてくれた。
後日、DC3の小型機による滝ツアーにも参加した私は、ペレスさんが最初に言ったことばを、身を持って納得することとなった。 エンジェルフォールは上半分をすっぽりと雲に覆われ、直線的に飛ぶ飛行機ではなす術もなかったのである。