世界遺産の迷路を散策 9世紀初頭にさかのぼるモロッコ最古の王都(モロッコ)

心強い公認のガイドに連れられて

「世界一の迷路」とはよく言ったものだ。フェズのメディナ(旧市街)は確かに、ひとりでは到底歩けそうにない複雑かつ巨大な迷路であった。
モロッコの西の都マラケシュに対し、東の都フェズは、ユネスコの世界遺産でもあるモロッコ最古の王都である。ムーレイ・イドリス二世が建てた町として、その歴史は九世紀初頭にまでさかのぼる。
フェズの町には新市街もあるが、「フェズ・エル・バリ」と呼ばれるメディナはモロッコ観光の最大の見所のひとつといっていいほど面白い場所である。
そしてこの町の散策にはガイドが不可欠な存在となる。それもメディナの中に暮らす、迷路を知り尽くした地元のガイドでなくてはならない。トンガリ帽子付きマントを着たネズミ男スタイルの、胸に公認ガイドの証明証をつけた男ならまずは安心。

パン屋に風呂屋も

十四の門のうちのひとつから中へ入ると、道幅が一〜三メートルの、くねくねと続く薄暗い石畳の坂道を、私の雇った「ネズミ男」はすいすいと人込みをかき分け進んでゆく。やはり彼はこのメディナの中に家があり友達も多く、あちこちに顔見知りがいるらしく心強い。
このメディナを丘の上から見おろしたとき、土色の古い建物が折り重なるように密集していて、そこに40万人もの人が暮らしていると聞いた。
人の多さに比例して店屋の大さも圧巻だ。野菜の市場に魚屋、肉屋、焼き立てのいい匂(にお)いがするパン屋など食料品からはじまり、真鍮(ちゅう)の食器売りや、それを磨く専門の職人のいる店、絹糸を昔ながらの手法で染める工場など日用品の専門店もずらりと並ぶ。「ない物はない」と言われるだけあって何でもそろっているが、路地裏にハマムという公共の蒸し風呂(ぶろ)まであったのには驚いた。

ロバのタクシー登場

日の出のショーが神秘的に幕を開けた。静寂の中で真っ赤な太陽が砂漠の砂をオレンジ色に染め上げる。静かすぎて何キロも離れたところで日の出を見ている人の声が間近に聞こえる。ラクダが草をはむ音がする。パリポリポリポリ…。「ミュージックみたいだろ」モハは詩的な表現をする。
砂丘を下りるとき砂がまた靴の中には入ったと嘆く私に「それは朝日に染まった砂漠のスヴニール(お土産)さ」とモハは笑った。
ホテルに戻って靴から砂を出す。サラサラと地面に落ちる砂は砂漠の茶色ではなかった。まるで朝日に染まったように、驚くばかりに赤い砂だった。