南米最南端 パタゴニアのクリスマス(チリ)

クリスマスはパタゴニアの大自然の中で!

そのために、はるばる飛んで飛んで、南米最南端へと向かった。シカゴ、マイアミ経由でチリのサンチャゴ着。そこからまだ国内線でプンタアレーナスへ、トータル28時間のフライトだ。子連れにはちょっとキツイのではと思われがちだが、そんなことはない。日ごろの疲れを癒すため(?)機内食もろくに食べず、寝っぱなしだった6歳の娘・彩乃を尻目に、長旅に少々退屈し疲れたのは母である私の方であった。
やっとのことでたどり着いた初日の夜を過ごすホテル。ドアに飾られた素敵なクリスマス・リース、レース編みのクッションカバーにバスルームのレースのカーテンと、乙女チックな趣向に大喜びの彩乃。 「ホテル・フィニステーラ」はチリ・パタゴニアの観光のゲートウェイとなる小さな田舎町プンタアレーナスの目抜き通りにあるホテルだ。部屋の窓から教会が見えたりして、いい感じ。それにしても8時半、夜なのに暗くならない。地球の北の方で白夜を体験したことがあるが、南の端でも白夜がやっぱりあるのだ。
ディナーを食べに6階のレストランへ。たっぷり機内で寝て元気はつらつの娘は大好きなステーキを美味しそうにほうばる。私はといえば、本場のチリワインの爽やかな美味しさにちょっと食欲が湧いてきて、いろんな(名前も知らない)貝がどっさり入ったニンニク味のスープを頂く。長旅の後のいきなりの貝料理。これが悪かったようだ。早速お腹をこわし、次の日は食事抜きの私であった。トホホ・・・

まずはペンギンに会いに

翌朝、早起きしてプエルトナタレス経由、パイネ国立公園へと向かう。そして、その前にぜひ寄ってみようと計画したのがペンギン保護区である。南極まで行かずともペンギンが見られるのだ。プンタアレーナスの北西70キロにあって、車で1時間半。道路は舗装され快適だ。車窓に見えるのは一面に緑のじゅうたんのような草原にちりばめられた黄色の花、白い花、紫の花・・・夏場の今が景色は最高なのだ。
牛や羊の群れが見える。やっぱり子羊は可愛いと思っていると、今度は野ウサギが跳ねて、小ぶりのダチョウも走る。灰色ののキツネも見つけた。上空にはタカやワシが優雅に飛んでいる。いろんな動物を発見できる楽しい道中だ。

ペンギン保護区へ

他には何もない海岸沿いにぽつりと建つ切符売り場とカフェテリア。そこから遊歩道を海岸に向けて歩いていくと、いるいる!ペンギンが登場。彩乃は大喜びでペンギンの方へ駆けて行く。ビーチに向かう所に柵があってペンギンに触ったりはできないようになっている。でもけっこう近くで見られるのがいい。パレードのように列をなしてぴょこぴょこ歩くペンギンの姿はなんとも愛らしい。かつてオーストラリアや南アで見たことのあるペンギンよりかなり大ぶりである。
このエリアに全部で1万羽近くいるとは驚きだ。見たことのあるペンギンよりかなり大ぶりである。陸地の巣で子育てをするのはお父さんで、海に出て魚を捕っているお母さん。皆が戻ってくる夕方にはいちばんたくさんのペンギンが勢揃いするそうだ。9月にここへ来て子供を産み育て、3月頃ブラジルへ帰っていく。ブラジル?不思議に思って聞いてみると、ここにいるペンギンは暖かいエリアででも生きられるペンギンらしい。知らなかった。
とにかくここは風が強くて寒い。ブルブル震えるほどで、お腹の具合の悪い私にとっては特に寒さが芯から身に沁みた。でもたくさん散歩している間に温まってきたし、日差しもポカポカしてきたので助かった。カフェテリアに戻り、カフェ・コン・レッチェ(カフェオーレ)で温まる。彩乃は美味しそうにココアを飲んでいた。
地図で見ると細長いチリ。先っちょの方は狭そうだが、パタゴニアの大地は広い。そこからプエルトナタレスまで車で3時間。そして今日の宿である目指すパイネ国立公園のホテル「オステリア・ラス・トーレス」までそこから約2時間の道のりであった。途中、プエルトナタレスのレストランで、食事抜きのママの分のサーモンのグリルを一人で平らげた彩乃の食欲にはビックリ。確かに美味しそうであった・・・

パイネ国立公園

ホテルの名前であるラス・トーレスLAS TORRESとはスペイン語でタワーの意味。まるで塔のように切り立った岩山が3つ、パイネ国立公園の名物であるこの山が近くにあるので、この名が付いた。国立公園の真っ只中にあって、敷地内に牧場もあり牧歌的なムードで、緑がいっぱいの開放的な自然美がすばらしいローケーションにある。
木の壁に白い屋根、白い窓枠の山小屋風の可愛らしい外観が、大自然の懐に抱かれたようなこの地にマッチしている。私たちの部屋を出てすぐ、廊下の向こうにラウンジがあった。温かみあふれる木造りのラウンジは、モンゴルのゲルを大きくしたような形である。
センスのいいインテリアに暖炉が設えてあり、ふかふかのソファと共にロッキングチェアがあって、いつも静かで居心地がよくて、私たちファミリーのお気に入りスペースとなった。時間があればこのラウンジでくつろぐ。彩乃はロッキングチェアをぎこぎこ動かしたり、お絵かきしたり、「指差しスペイン語会話」の本を眺めたり、ガラス張りの外にある芝生の庭のブランコに乗ったり。他のゲストもソファで寝そべって本を読んだり、我が家のようにリラックスしているが、お互いに静寂を保ちつつ幸せなひとときを共有している。彩乃がそういう時間を共に過ごせる年齢に成長していて、本当によかった。

ラベンダーの花々の咲く庭

ラベンダーの花々の咲く庭でかけっこしたり、ブランコしたり。大人まで子供に返る場所というのも何だか嬉しい。朝は早起きして、7時の朝食までにちょっとした散歩に出かけることもできる。どうしても早起きして歩きたい、そう心から思わせてくれる自然があるのだ。ハイキングコースのトレイルをたどって歩くと、小さな橋あり吊り橋ありとちょっとしたスリルも味わえる。朝の澄み切った青空に美しく輝く山々の姿が映えて、歌でも口ずさみたくなる気持ちよさ。そして次の日はホテルの裏手の丘に登ってみたり、道なき道をかき分けて歩いたり、普段運動不足の我々にしてはかなり精力的に楽しんだのであった。彩乃にとっても決してハードすぎず、冒険心を満たせるいい環境のようだ。
ホテルに戻っての朝食は、シンプルなのにとても美味しい。適度な運動の後だからなおさらだ。高級ホテルのように、目の前で卵料理を焼いてくれたり、というサービスなどないが、自家製の焼きたてパンに、蜂蜜入りのバターを塗って食べる、それだけでとっても満足なのだった。

壮大な自然が魅力のパイネ国立公園

パイネ国立公園は、山あり氷河あり湖あり滝ありとバラエティに富んだ自然が魅力だが、忘れてはならないのがグアナコの存在。アルゼンチン側のパタゴニアでは稀にしか見られないグアナコが、ここパイネでは頻繁に出会えるのだ。それもそのはず、このエリアには35000頭ものグアナコがいるという。
長い首とピンとした耳。ペルーにいるリャマの仲間だが、その凛とした風情がなんとも愛らしい。好奇心が旺盛で、誰だろう?という顔をしてこちらに近づいて来たりする。ラストーレスの尖った岩山や雄大な山々を背景に、光り輝く緑の草原に暮らすグアナコのファミリーの姿は、そのまま1枚の絵葉書のよう。メスは赤ちゃんと群れをなし、オスは1頭だけ離れて丘の上の方で見張り番をして、赤ちゃんをプーマから守っている。立派なオスの姿は神々しくさえあって、心を打たれる。
グアナコの興味深い話を聞いた。毎年、たくさんの赤ちゃんが皆同じ日の同じ時間に生まれるという。いわゆる同時出産だ。それに合わせオスたちが出産を見守れるように。これも天敵プーマから赤ちゃんを守るための自然の摂理なのだとか。
グアナコファミリーのコロニーらしきエリアに入り、赤ちゃんに近付いていくと、なんと離れて立っていた大きなオスのグアナコが2頭こっちに突進してきた。時速70キロくらいはありそうな勢いだ。焦っていると、彼らは我々のすぐそばをすり抜けて母子たちのもとへと駈けて行った。
必死で家族を守ろうとする姿を見て、あまり不用意に近づいてはいけないと、早々に退散することにしたのだった。

グレイ氷河クルーズ

グレイ湖はパイネ国立公園で最大のグレイ氷河が流れ込む湖である。遠くからでもブルーの氷塊が見える不思議な光景。これは1998年に大規模の氷河の崩落が起こった後、湖面が氷塊で埋め尽くされていた名残である。水際まで近づくと、ありとあらゆる形の氷の塊が浮かんでいるのを目の当たりにできる。ここが「氷の墓場」と呼ばれるのも、なるほどと納得できる。流れ着いて、後は溶けて(死んで)ゆくだけというわけだ。
氷塊が元気に生きた状態である氷河を見てみたい、そう痛切に感じた。ガイドブックには、「湖面が氷塊で埋め尽くされ、クルーズ船は現在運休中」と書いてあったので、諦めていたのだが、ホテルでチェックすると、なんと今は再開しているという。
さっそく次の日の予約を取って出かけることにした。同じ湖畔の桟橋よりUボートで船へ連れて行ってもらう。午後3時発、所要4時間の長いクルーズである。あいにくの雨模様で、最初の15分は2階のデッキに出られなかった。その後救命胴衣をつければOKとのアナウンスがある。風が強くかなり寒いので、セーター2枚にウィンドブレーカーを着込んだ上に救命胴衣を着けた。彩乃用にも可愛いパープルのライフベストをスタッフが持ってきてくれた。気が利いている。喜び勇んで一緒にデッキへ。
だんだん青白い氷の壁が近づいてきた。船はいったん止まり、そしてゆっくり廻り氷河を見せてくれる。晴れの日は太陽光線の強さで白く輝いてしまうのだが、逆に曇りの日ほど光の吸収の加減で氷河は青さを増すという説明だったが、それは本当だ。目の前に立ちはだかる氷の造形美、神秘的なまでのその青色にため息が洩れる。どんどん船は進み、もうすぐ目の前で触れそうなほどに接近する。これは大迫力の体験である。
ぽっかりと空いた穴に濃いミントシロップでも流し込んだような氷の洞窟が見える。鋭い刃のように尖った氷の柱や、向こうまで透けて見える細長い亀裂もある。すべてが息を呑む感動の世界。
その頃、階下のキャビンでは、この氷河の氷でオンザロックにしたウィスキーをゲストに振舞っていた。少し晴れ間も出て、暖かい日差しを浴びながら、デッキの上で氷河を眺めつつ、オンザロックで乾杯!彩乃はジュースで乾杯だ。
そしてきょうはクリスマス。神様が創り出してくれた、何より素敵なクリスマスプレゼントだった。