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満州国の遺産、長春の旧ヤマトホテル(現春誼賓館)
中国東北地方、かつて満州とよばれていた地域には南から遼寧省、吉林省、黒竜江省という3つの省があります。1932年から終戦までは、この地に日本の庇護のもと満州国という国が存在し、日本との結びつきも強い地方です。このうち長春を省都とする吉林省は、あまり旅行先として取り上げられることはありませんが、実は日本建築が立ち並ぶ旧満州国ゆかりの都市や「ボーダーツーリズム」を体感できる国境沿いの地域があり、知る人ぞ知る魅力たっぷりのエリア。この吉林省のうち、長春と延辺朝鮮族自治州についてご紹介しましょう。
偽満皇宮博物院

偽満皇宮博物院の同徳殿
激動の20世紀前半、日中関係に翻弄されながら生き延びた「ラストエンペラー」愛新覚羅溥儀。この溥儀が暮らした皇宮が、旧満州国の都でかつて新京と呼ばれた長春にあります。現在、偽満皇宮博物院として公開されており、豪華絢爛な館内を見て回ることができます。特に新宮殿が完成するまでの仮の宮殿として建てられた同徳殿には、映画「ラストエンペラー」のロケ地として使われた壮麗なホールや溥儀の寝室、ピアノやビリヤード室など、溥儀の生活の場が今も保存されています。同徳殿に隣接しているのは、天照大神を祀った建国神廟跡や防空壕。また宴会場だった嘉楽殿では溥儀の生涯を紹介した展示されています。日本語の案内看板もあるので中国が分からなくてもOK。

「ラストエンペラー」撮影に使われた同徳殿ホール
長春市内には地下鉄が数路線走っていますが、このうち3号線と4号線の乗換駅となっており、長春駅から3号線でたった2駅の偽満皇宮駅から偽満皇宮博物院まで歩いて行くことができます。入場券は70元で、入口前のビジターセンターで簡単に買えます。敷地内は広いので、興味がある方なら1~2時間は時間を取りたいところです。
施設名 | 偽満皇宮博物院(長春) |
エリア | 長春 |
住所 | 長春市光復北路5号 |
TEL | 86-431-8286-6611 |
営業時間 | 8:30~18:00 |
休館日 | なし |
入場料 | 70元 |
アクセス | 地下鉄偽満皇宮駅から徒歩5分 |
公式サイト | http://www.wmhg.com.cn/ |
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長春の満州国建築めぐり

偽満洲国新皇居(現吉林大学地質宮博物館)
長春には、偽満皇宮博物院以外にも満州国時代の建築物が建ち並んでおり、建築好きや近現代史好きにはたまりません。特に市内中心部の旧順天広場(現文化広場)にはかつての新皇居があり、そこから延びる旧順天大街(現新民大街)には、国務院や八大部と呼ばれた国家機関として使われた建物が現存しています。国務院は日本の国会議事堂によく似ており、八大部の建物も日本、中国、西洋の建築様式が入り混じった不思議な外観。いずれも現在は大学や病院として大切に利用されています。

旧関東軍司令部
その他、長春では長春駅から南北に走る人民大街や、長春駅近くの南広場周辺に旧満州国時代の建物が集まっており、プレートに何の建物として使われていたか書かれています。まるで日本のお城の天守閣のような旧関東軍司令部(現共産党吉林省委員会)は、ぜひ眺めておきたいところ。また長春に泊まるなら、長春駅前の春誼賓館旧館の宿泊はマスト。このレトロなホテルは、かつて南満州鉄道(満鉄)が各都市で営業していたヤマトホテルのうちの1つだったのです。2階ロビーには愛新覚羅溥儀や満州映画の専属女優だった李香蘭など、このホテルに滞在した錚々たる賓客の写真が飾られています。
図們と防川で国境探索!

防川展望タワー内のロシア土産売り場
新しい観光のスタイルとして最近人気の、隣国を眺めたり実際に国境を渡ったりするボーダーツーリズム。北朝鮮とロシアと国境を接する吉林省延辺朝鮮族自治州は、このボーダーツーリズムを身をもって体感できるエリアです。まずは最大の都市延吉から車で東へ1時間、図們の町に寄ってみましょう。ここは豆満江(トマンガン)沿いの町で、その対岸は北朝鮮の町・南陽。オンシーズンにはここから毎日国境遊覧船が出ており、また中国人であれば日帰り北朝鮮訪問もできるそうです。夜に訪れると、光であふれる中国側とほぼ闇が広がる北朝鮮のコントラストが印象に残ることでしょう。

中朝国境モニュメントと豆満江国境遊覧船
図們からさらに車で豆満江沿いに1時間半。防川村(防川風景区)は北朝鮮・ロシア国境が間近に迫る、3国境が接する場所です。入口にある観光センターでチケットを買ってシャトルバスに乗り換え、降りると現れるのは12階建ての展望タワー。南側を眺めると眼下に豆満江が流れ、この右側が北朝鮮の、左側がロシアの領土になります。さらに天気のいい日は日本海までも望めます。隣国が隣国だけにピリピリした雰囲気かと思いきや、タワーから2国を眺めて歓喜する中国人旅行者たちでにぎわい、緊張感はあまりありません。ただし外国人個人で訪問しようとしてもチケットを売ってくれないこともあり、また現地情勢によっては全面立ち入り禁止になる場合があるとのこと。
施設名 | 防川風景区 |
エリア | 琿春 |
住所 | 琿春市防川村 |
営業時間 | 8:00~18:00 |
休館日 | なし |
入場料 | 入場料70元+シャトルバス代7元 |
アクセス | 延吉から車で約2時間半 |
半島と大陸が交わる街・延吉

漢字とハングル表記が共存する延吉の街並み
吉林省東部、北朝鮮とロシアに面した地域が延辺朝鮮族自治州。中国でありながら朝鮮民族が多く住むエリアで、彼らの祖先は主に17世紀以降に国境の豆満江を渡って朝鮮半島から移住してきました。その中心都市が人口の4割を朝鮮族が占めるという延吉で、ここで見られるのは漢字とハングルが共存する不思議な街並み。食文化も朝鮮の影響が強く、市内では冷麺や犬肉、マッコリなどを気軽に味わうことができます。この延吉は手軽に異国情緒が味わえると中国人観光客の間で最近注目されており、チマチョゴリなどを着て楽しむ彼らの姿も見られます。また朝鮮民族の聖地で、中国側から行くことができる長白山(白頭山)の観光の拠点になる街でもあります。

朝市のキムチ売り場
延吉の見どころの一つが、市内中心部を流れる煙集河沿いで冬以外毎日開催されている朝市(延吉水上市場)。地元住民や旅行者で毎日大盛況で、漢字とハングル併記の看板の下にキムチ売り場やサムゲタン食堂などが並び、一見するとソウルの市場かと思うほど。マッコリや高麗人参なども買うことができます。ホテルの朝食をパスして、ぜひこの市場で朝ご飯を楽しみましょう。
施設名 | 延吉水上市場 |
エリア | 延吉 |
住所 | 延吉市参花街 |
営業時間 | 4:00~9:00ごろ |
休館日 | 冬以外毎日営業 |
入場料 | 無料 |
アクセス | 延吉空港から車で15分 |
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都市間移動は中国高速鉄道で

延吉西駅に停車する和諧号と復興号
目覚ましい勢いで延伸を続ける、中国版新幹線こと中国高速鉄道(CRH)。2025年時点での総延長はなんと5万キロに及ぶとされ、もちろん、この路線網は世界の高速鉄道の中で断トツ最長です。今まで辺境と呼ばれていた地域でもどんどん新路線が開業しており、吉林省でも長春から延吉や図們を通り、ロシア国境の町・琿春へ行く路線があります。長春から延吉への所要時間はわずか2時間半。かつて満鉄の伝説の列車「あじあ号」が走っていた主要幹線の大連―瀋陽―長春―ハルビン間ももちろん高速列車が行き交っており、あじあ号で12時間以上かかっていた大連からハルビンまでの道のりが、わずか4時間になっています。

朝鮮風の壁画が掛かっている延吉西駅待合室
開業当時から走っている和諧号に加え、習近平国家主席が命名した復興号という列車も現在運行中。いずれの列車も車内は日本の新幹線に似ており、2等車は2列+3列、1等車は2列+2列の座席配置。一部の列車には1列+2列の商務車(ビジネスクラス)や寝台車もあります。切符はネットで購入可能で、以前は乗車前に窓口で紙の切符に引き換える必要がありましたが、現在はEチケット化され紙の切符無しで乗車可能。外国人旅行者は有人改札でパスポートを提示して待合室に入り、15分前に開かれる乗車ゲートでも有人ゲートを通ります。乗車の流れは鉄道というより飛行機に似ており、発車5分前になると乗車ゲートがクローズして乗車できなくなります。どの駅も待合室は巨大なので、なるべく早く自分が乗る列車のゲートを見つけて並んでおきましょう。

まとめ

延吉で味わえる、ビビンバやマッコリなどの朝鮮料理
日本から近く簡単に行ける国でありながら、他の国では感じられない強烈な刺激が味わえる奥深い国、中国。今回紹介した吉林省も、長春であれば成田から隔日で直行便が出ており、また仁川や北京経由でも行くことができます。もちろん高速鉄道を使い、瀋陽やハルビンなどと組み合わせて周遊することも可能。満州国の面影を探しに、そして近くて遠い国・北朝鮮やロシアの地を眺めに、ショートトリップはいかがでしょうか。

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